にゃも
今回は、東京の総合病院で医者として活躍されていた進谷さんが、どうして、「病院で働くのを辞め、海外のカンボジアへ」行ったのか・どのような事を信念で活動をしているのかに迫ってみました。
進谷憲亮さんプロフィール
1987年:福岡県京都郡苅田町に生まれる。
2012年:九州大学医学部医学科卒業。
2013年:東京都立多摩総合医療センターに医師として勤務。
都内で地域と医療をつなぐ場として、「Joy’N US Community × Medicine」を定期開催。
2016年:NPO法人「地域医療連繋団体.Needs」を立ち上げ、一般の方への医療教育の提供、健康な町づくり事業などに携わる。
2018年:カンボジアにて特定非営利活動法人 ジャパンハートのボランティアに従事
2019年:武蔵国分寺公園クリニックにて勤務開始
医者としてのキャリアを中断したのは、先生からのアドバイス
にゃも
医者としてのキャリアを積んでいた進谷さん、なぜ急に海外に興味を持ったのですか?
けんさん
きっかけは、在宅医療に携わられている先生と飲みの場で話している時ですね。先生はジャパンハートの長期医師ボランティアスタッフとしてミャンマーで2年間勤務されていた経験がありました。
けんさん
私が、今の日本の医療の課題などについてグダグダと想いを語っていたところ、「進谷君は色々考える前に一回ミャンマーに行ってきたらいいんや!」と言われました。
にゃも
それがキッカケですぐに辞めてしまったのですか!?笑
けんさん
はい!元々、国際医療にも興味があったこともあり、次の日には「よし!これは行くしかない!」ってなっていました。即決でしたね(笑)。少なくともあと2年間は勤務していた多摩総合医療センターに残るつもりだったのですが、これはもう運命かなと。
ジャパンハートとは
ジャパンハートは2004年、小児外科医の吉岡秀人氏により、国際医療ボランティア団体として設立された日本発症の国際医療NGO。「医療の届かないところに医療を届ける」を理念に活動。海外ではミャンマー、ラオス、カンボジアで子どもの診療・手術を無償で実施。その数、年間2万件。日本国内では医療者不足が深刻な僻地・離島への医療者派遣、小児がんの子どもたちを支援する「Smile Smile Project」を実施している。
けんさん
はい。ジャパンハートの提供している国際医療短期ボランティアに応募し、ミャンマーにおける手術活動に携わりました。
現地で長期医師スタッフとして務めるには、この短期ボランティアに参加経験のあることが必須だったからです。
にゃも
ボランティアスタッフとして、どれくらい滞在されたのですか?
けんさん
1年間です。期間は自分の希望でした。ミャンマーで短期を終えた後、2018年4月からカンボジアでの活動に参加しました。場所については、ジャパンハートに決めていただきました。
にゃも
カンボジアで感じた事で、一番心に残っているのは何ですか?
けんさん
日本では診療に全く不自由がない。しかし、カンボジアは違うという点です。十分な医療資源がなく、必ずしも「命」を救うことができない中で、人の「いのち」にどれだけ寄り添う事ができるのかが大事だと思いました。まさに日本では体験できない事です。
- 医師として自分に何ができるか
- 経済格差の理解と実体
カンボジア医療の背景
カンボジアは約40年前に起きたポルポト政権時の大量虐殺により、多くの医療者が殺害され、医療が崩壊しました。この医師が不足している問題を解決するため、カンボジア政府は1年間という短い就学を経た未熟な医療者を大量に排出しました。その後、海外からの支援で少しずつ現状は良くなって来ているものの、現在も医師不足、病院不足の問題に直面しており、特に貧困層の方には医療は身近ではないのが現状。
カンボジアで医療者として大切な価値観を再確認
けんさん
カンボジアでの1年間は本当に沢山のことを考えるきっかけとなりました。先に述べた様に、カンボジアでは必ずしも最良の医療を提供できる訳ではありません。
限られた資源・選択肢の中で患者さんの命と向き合いました。命を助けられないことも沢山ありました。そんな中で、たとえ、命を救えなかったとしても、最後までその人にいのちに寄り添うことの大切さを学びました。
けんさん
はい。家族を養って行くために、1日でも長く仕事を続けることができる方法を取ってほしいと、日本では入院治療が必要な状態の方を、外来で治療することもありました。
けんさん
障がいが残って家計の足手まといになるなら、これ以上の治療はしないで欲しいと、命を諦めることを強いられることもありました。
宗教的価値観からか死者を家や村に連れて帰ることを良しとされておらず、このまま治療しても病院で亡くなる可能性が高いなら、生きているうちに家に連れて帰りたいと、治療の途中で帰路を見送ることもありました。
けんさん
これは1年間のうちに学んだことのほんの一部のことです。
カンボジアという国は私に医療の本質、そして、医療者として大切な価値観を教えてくれました。
進谷さんが主導しているNPO法人の活動とは
にゃも
日本に帰国してから、武蔵国分寺公園クリニックで勤務されているという事ですが、その他に活動はしていらっしゃるのですか?
けんさん
武蔵国分寺公園クリニックの家庭医として働く傍ら、NPO法人地域医療連繋団体.Needsの活動に精を出しています。カンボジアにも数カ月に1回は行きます。
にゃも
そのNPO法人というのはどういう流れで発足したのですか?
けんさん
総合病院で勤務する中で、病院内だけで医療を行うことに疑問を持つ様になったからです。
医療は病気を治すことではなく、人を幸せにすることであるということを、とても大事にしていたのですが、病院内だけの治療だけではそれが実現できないと感じる様になったからです。
けんさん
その上で、「病院の外で医者としてできることは何だろう?」ということを意識してきました。
地域社会、人々の生活の場に近い場所で、医師としてできることが、もっとあるのではないかと。
にゃも
病院の中の医療だけでは解決できない問題があるという事ですね!
けんさん
はい。その認識を持つ様になってから、まずは2016年1月に1回東京都内で異業種交流会「Joy’N US Community × Medicine」を始めました。人と人とがつながり、情報を交換し合う場を作ったのです。
けんさん
交流を繰り返すうちに興味を持ってくれる人が増えてきて沢山の出会いを頂くようになりました。同時に、色んな仕組みや既存の活動について知る機会も増え、活動の幅も広がっていきました。
中には、僕と同じ様に、課題意識を持ちつつも、どう行動に移していいかわからなかったという医療従事者も居たのです。
にゃも
現代の医療について疑問を持ちつつも、自己実現できない医療従事者が他にも居たのですね。
けんさん
はい。それにより「医療者が活動できるプラットホームを病院の中だけでなく、外にももっと作っていきたい」という思いが出てきました。
けんさん
私がちょうどその様に考えている時に、大学時代からの仲間から、一緒にNPOを設立したいと声をかけてもらい、2016年7月に仲間たち一緒にNPO法人地域医療連繋団体.Needsを立ち上げました。
自分たちの課題意識、そして理想を実現すべく動き出したのです。
にゃも
具体的にはどのような活動をされていらっしゃるのですか?
けんさん
現代の日本では「医療」に触れる機会がないため学校などに現役医療者が訪問し授業をしています。
自治体や民間法人と連携して、デイサービスや就労支援A型事業所の医療介護福祉事業を行なったり、まちの保健室や相談カフェなどのコミュニティ作りもしています。
現在.Needでは8つの法人事業と5つの共同事業があります。
法人事業
- 出前授業
- 医療顧問登録
- ラジオ番組
- 地域まるごと健康会議
- KITA Q HEALTH LAB
- engawa(移動式コミュニティ)
- Needsげんき塾(体操教室)
- 海外事業
共同事業
- 地域貢献事業 発達障害者支援(相談カフェ)
- 教えてドクター
- Turn the Town (ボードゲーム)
- クラスジャパンプロジェクト(街の元気学校)
- モバイル屋台プロジェクト
けんさん
それぞれの活動は.Needsの公式ホームページを読んで頂きたいです。
全ての活動に関して、以下の「Vision」「Mission」「Objectives」の観点から事業や業務をしています。
法人運営方針
- 「Vision」
皆が支え合い笑顔で過ごせる地域医療の実現
- 「Mission」
現代に応じた新しい医療の形を創造する
- 「Objectives」
産学官民と共に地域のNeedsに合った地域活動を実施していく
進谷さんの考える日本の医療の課題
けんさん
医療の理想の形は「自立支援」だと思っています。医療者だけでは医療は成立しません。健康の問題にしろ、結局は自分たちの体のことです。
けんさん
予防するも検査を受けるも治療を受けるも、どう生きていくかも自分次第です。
だからこそ、医療に関して誰もが当事者意識を持ってもらう必要があります。そのためにも専門職として、診療以外で今後やっていくべきことは「教育」なのかなと思っています。
にゃも
たしかに・・・。診療以外で医者から健康について学ぶ機会って全くないですからね・・・。
けんさん
今の日本では医療者と非医療者の知識の格差が年々大きくなっています。
しかし、その知識の中にはごく当たり前に誰もが知っておくべき知識も沢山あります。
にゃも
そうなのですね・・・。是非、そのような知識を手に入れる機会が欲しいです。
けんさん
医療従事者や病院に依存するのではなく、一人一人がある程度は医療に関する知識を持っておかなければいけません。
だからこそ、医療を提供するだけではなく、きちんと教えるということも重要な役割だと思っています。
- 学校教育の場や地域の集会場で話をする
- 地域の人たちを集めて、地域について考える会議を定期開催
- 医療従事者と住民が対話・情報交換をするコミュニティカフェを運営
けんさん
上記のような教育・触れ合いを通して、住民が主体的に、より健康な地域にするために活動できるサポートを行っています。
北九州市自治体、北九州市医師会、社会福祉法人、大学校などとも連携させて頂き、産学官民が連携した形で、様々な事業を行なっています。
にゃも
その他に、現状の日本の医療について課題はありますか?
けんさん
海外からクレイジーだと言われるくらい身を削って働いている日本の医療者の役割をいかに減らすかというのも、解決すべき1つの大きなテーマではないかと思っています。
私は医療者も患者さんもみんなが幸せな社会を夢見ています。
にゃも
医療従事者が過労で疲弊しきっているっているのは大きな問題ですね。
けんさん
医療者が担っている役割の中には、医療者がしなくていいことも沢山あると感じています。
それを医療者がしなくていいようにするだけで、医療者ももっと余裕ができ、医療者にしかできないことに専念できるようになります。
けんさん
医療従事者の時間が増えれば
、医療の質はもっと良くなります。
そして、その鍵は病院の中ではなく、病院の外にあるように感じています。NPO法人の活動を通して、そこにアプローチしていけたらと思っています。その結果、医療者も患者さんも、みんなが幸せになれる社会を実現していきたいです。
にゃも
日本とカンボジアの医療に関して、熱い思いを語って下さりありがとうございました。