こんにちは、燈里です。台北の大学院で美術の理論を学んでいます。
大学院の先生方の紹介で、2019年6月から10月まで実習生として国立台湾美術館をお手伝いしました。文化施設や社会教育施設として、また観光地としても魅力的な国立台湾美術館について、この記事でご紹介したいと思います。
基本情報
名称:國立臺灣美術館(National Taiwan Museum of Fine Arts)
住所:台中市西區五權西路一段2號
電話番号: 0423723552
開館時間: 9~17時 (土日~18時)
休館日: 月曜日
料金: 無料
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国立台湾美術館の見どころ
歴史
国立台湾美術館は台湾で唯一の国立美術館です。1988年に開館し、1999年の地震被害の後、2004年にリニューアルオープンしました。清朝時代の18世紀から現代におよぶ台湾の美術作品を収集し、過去20年間で15000点以上のコレクションを収蔵、保存、研究してきました。毎年30以上の展覧会を開催し、過去20年の間に900近い展示を開催しています。また、展示の関連イベントも含め、芸術教育活動の多様な機会も市民に提供しています。
建築
国立台湾美術館は4階建てで、敷地面積は102000㎡あり、アジアで最も広い美術館の一つです。そのうち館内の展示スペースは、敷地面積にして15601㎡、16の展示室からなります。1,2階で特別展を、3階で収蔵品による常設展を開催しています。屋外広場には台湾の彫刻史を象徴する45の彫刻作品を設置しています。全ての人々に開かれた教育と娯楽の環境を提供することを目指し、改装後は新たに合計5319㎡に及ぶ絵本コーナーや家族用のスペース、メディアアートセンター、教師向けの資料室などを設置しました。11032㎡はコレクションを保存する収蔵庫に当てられています。
「館區720度環景」から国立台湾美術館の敷地内の様子が720度見られます。
国立台湾美術館での展覧会(2019年10月5日~2020年2月9日)
1,2階 特別展|2019 Asian Art Biennial – The Strangers from beyond the Mountain and the Sea (2019年アジア・アート・ビエンナーレ: 山と海の向こうの異人)
会期: 2019年10月5日~2020年2月9日
会場: 展示室102~108,202~205, ロビー、美術街
国立台湾美術館の使命は、台湾の近現代の美術の発展に寄与するとともに、国際的な文化・芸術交流を図ることです。その使命に基づき、2007年以降、アジア・アート・ビエンナーレと称して2年に一度アジアの芸術を紹介する国際芸術展を開催しています。
キュレーターによって提案されたテーマの下、アジアの膨大な文化を紹介するだけでなく、アジア社会の多様性とグローバル化の相互作用から生じた現在と未来のアジアのあり方を模索する機会でもあります。
第7回目となるアジア・アート・ビエンナーレが2019年10月5日に開催されました。「山と海の向こうの異人」をテーマに、16ヶ国30組のアーティストによる絵画や彫刻、写真、音楽、インスタレーション、映像、パフォーマンス、ワークショップの幅広い作品が展示されています。
今回のアジア・アート・ビエンナーレではキュレーターとして許家維(シュウ・ジャウェイ)と何子彦(ホー・ツーニェン)を迎えました。許家維は台湾を代表するアーティストで、アジアの歴史研究の結果を映像作品やパフォーマンスとして表現しています。
何子彦はシンガポール出身のアーティストで、神話の構造や歴史、伝承、物語の探究を通じて作品を制作し、映像や執筆、演劇で発表してきました。何にとってはこれが初めてのキュレーションでもあり、若手アーティストとして国際的に非常に高く評価されてきた2人がどのように展示を作るのか、選出当時から注目を集めてきました。
アーティストの視点からのキュレーションは、展示の企画段階から出展アーティスト達との対話の確立を可能にしてきました。何は美術館を小型の都市に例えています。「キュレーターとして私達は美術館という都市の市長のようであり、アーティスト達と共に都市計画を練りました。アーティスト達は世界中から各々贈り物としての作品を持ってこの美術館を訪れました。」
ビエンナーレの開幕2週間前から作品の設置期間が始まり、多くのアーティスト達が各国から国立台湾美術館を訪れ、それぞれの展示空間で作品の設置作業をしました。その中でキュレーターの2人がアーティスト達と会話を楽しみつつ、積極的にコミュニケーションを図る様子が私の印象に深く残っています。
テーマ「山と海の向こうの異人」
テーマとなっている「山と海の向こうの異人」は、1929年に民俗学者の折口信夫が提示した「まれびと(稀人・客人)」の概念に由来します。まれびとは外部からの来訪者を指します。
日本では、まれびとが知識や知恵、幸福のような贈り物をもたらすと信じ、宿舎や食事を提供して歓待する風習が各地で普遍的に見られてきました。このビエンナーレのキュレーターは、まれびとが他者や未知のものに対する寛容で開かれた態度の象徴であると解釈しました。
「山と海の向こうの異人」は遠方からの旅行者だけでなく、多くの他者を指します。霊魂、神、霊能者、外国貿易商、移民、少数民族、植民地開拓者、密輸者、遊撃隊、スパイ、反逆者をも含んでいます。
何は「これらの異人は仲介者であり、彼らと出会いは別の世界との出会いです。異人との遭遇によって、内部の人間は境界線を問い直し、延いては自らの中にも異人の要素を見出すかもしれません。」とコメントしています。
キュレーターはアジア・アート・ビエンナーレを基盤に異人との出会いの場を構築することで、鑑賞者が自らとアジア社会の現代と過去を探求し、再考することを期待しています。アジアには脱植民地化や地政学の移行、技術の変化、環境問題など、政治的、歴史的、経済的側面における多くの未解決の人文科学の課題があります。
このビエンナーレの展示作品は、現代アーティストが異人という視点を通して、アジアにおける複層的な課題をどのように解釈し、可視化し、態度を示し、呼応しているのかを示しています。既存の哲学体系や論理的、政治的視座が限界を迎える現在において、現代アート作品がイデオロギーを衝突させ解体させたり、鑑賞者が想像し思考するよう促したりすることで、非人間的及び地質学的観点から現実を捉える枠組みを拡大することをアジア・アート・ビエンナーレは目指しています。
アジア・アート・ビエンナーレは相互に関連する4つの章で展開します。1階は第1章(展示室102)と第2章(展示室103~108)で、山と海、雲、鉱物の物語と人間の歴史の複雑な関係性を具体化する作品を展示しています。2階の第3章(展示室202)では、非人間的な力によって国家のアイデンティティの領域を超えた位置に導かれた人間が主題の作品を取り上げています。同じく2階の第4章(展示室203~205)は、人間と物質の変化のビジョンを示す作品に捧げられています。
以下はアジア・アート・ビエンナーレでハイライトとして私が個人的に選んだ作品の展示風景です。
キュレーター2人は共同研究者の林怡秀とともに展示の実験的なデザインに挑戦しました。林は展示室を繋ぐ廊下に各作品の「脚注」を用意しました。この脚注コーナーでは、作品が扱う論題の情報をパネルや歴史資料、参考文献を通して視覚的に参照しています。
これは出展作品の多くが特定の文脈において複雑な概念を扱っていることをキュレーターが考慮し、観客が作品の背景をより深く理解できるよう願って設置しました。
各展示室の入り口にはパンフレットが置いてあり、各作品の紹介が書いてあります。気になった作品は是非脚注コーナーとパンフレットで詳しい説明を参照してみて下さい。
展示関連のイベントも順次開催されています。詳しくは公式ホームページをご覧下さい。
3階 常設展示|Home & House – Cultural Accessibility Exploration Area for All (家と住宅ー全ての人々のための文化的アクセシビリティの探索)
国立台湾美術館の3階では美術館の収蔵作品を展示した常設展示が開かれています。現在の常設展では、住宅をテーマに扱った収蔵作品に焦点を当てることで、台湾の「家」の概念の再考を目指す展示を開催しています。
伝統的な台湾社会において家は最も小さい社会集団です。同じ家に暮らす人々を家族と呼ぶとしたら、家には血縁や戸籍上の家族だけではなく、神や先祖も共に暮らしているかもしれません。家というのは住居者の生活の場であると同時に儀式を行う場所でもあります。
この展示では住宅というテーマの下、油絵、グワッシュ、墨絵、版画、水彩画、写真、映像など多様なアートの媒材を用いた作品を展示しています。写実主義、アバンギャルド、絵画制作における新しい表現方法、新しい素材の適応など、時代とともに表現形態の移り変わりも見ることができます。異なる時代に台湾のアーティスト達がどのように家と住宅を捉え表現したのか、是非作品の細部まで観察し触ってみることで、住宅という題材をより深く感じてみて下さい。
3階の常設展のうちこの展示室301は、障害者も含めた全ての人々が作品を鑑賞し学べる機会となるように、複数の知覚デザインを取り入れた展示作りに取り組んでいます。2017年に国立台湾美術館は視覚障害者向けのサービスと空間を提供する公共施設に台湾の文化省から指定されました。
以来美術館は視覚障害者を対象としたサービス戦略を立ち上げ実践を重ねてきましたが、その過程で視覚障害者が視覚芸術を享受する権利を奪われてきたグループであることに気付きました。その改善を目指し、視覚障害者向けの音声解説と点字による解説、展示作品の立体模型に触れる触覚ツアーを開発しました。
さらに、視覚障害者に限らず美術館の利用権を制限されてきた他の障害者やご高齢の方向けにも、展示の内容やインフラを整えてきました。例えば、聴覚障害者向けに各作品に手話での解説動画を設置しています。
国立台湾美術館公式のアプリ「國美友善導覽」は、視覚障害者および聴覚障害者向けの展示のガイドで、音声ガイドと手話ガイドで美術館の収蔵品の解説をします。車椅子の方の利用を考えて、全ての通路は車椅子が180度回転、直角に曲がることのできる広さにリノベーションしました。ご高齢の方向けに持ち運び可能な椅子や文字を拡大した説明パネルも用意しています。一般の方にとっても作品を新しい知覚から感じることのできる興味深い鑑賞体験になると思います。
ガイドツアー
国立台湾美術館では「中国語と英語」によるガイドツアーのサービスを提供しています。
- 定刻ガイドツアー
開館日の10時半、14時半から美術館職員によるガイドツアーを行なっています。 - 音声ガイド
1階ロビーの受付で身分証のご提示と申込書へのご記入、または500NTDのデポジットをお支払い後、無料で展示作品の音声ガイド用の無線電話を貸し出ししています。 - 団体向け予約ガイドツアー
15名様以上の団体向けにガイドツアーを受け付けています。平日の来館の2週間前にホームページ(中文)からご予約下さい。
国立台湾美術館内のお食事
春水堂
国立台湾美術館の地下1階にある春水堂は、1983年に創業し、台湾で50店舗以上、日本で15店舗を展開するお茶専門のカフェです。タピオカミルクティー発祥の店として台湾で国民的な人気を誇っています。
時代に合わせた革新的なお茶の飲み方を開発する他、お茶の文化継承と味への追求を行うため「お茶マイスター」認定制度を設け、春水堂のドリンク作りは全て認定者が担当しています。また素材と品質にこだわり、使用する茶葉は全て無添加で、香料・フレーバー・防腐剤は一切使っていません。是非春水堂一押しのタピオカミルクティーをお試し下さい。
フードメニューも充実しているので、お食事でもご利用できます。お勧めの功夫麺は、豚挽肉と椎茸が甘辛い味付けのソースとなっている汁なし混ぜ麺です。
台灣名物牛肉麺も春水堂で注文可能です。濃厚な牛肉スープと手作り麺の組み合わせがやみつきになる絶品です。
春水堂のホームぺージからもメニューを覗く事ができます。
ローズハウス(Rose House)
台湾の紅茶専門店”Rose House”も美術館内2階に出店しています。Rose Houseは1990年に開設された、台湾最大級の英国紅茶のチェーン店で、中国・カナダ・アメリカにも店舗を展開しています。
国立台湾美術館内のRose Houseではお飲み物やデザートをお召し上がりいただける他、紅茶や台湾茶、食器をお買い求めいただけます。Rose Houseではたくさんの種類の紅茶を扱っていますが、お土産にお勧めのホットティーはRose Petal Tea(薔薇の花弁が入った紅茶)です。
中国とインドのダージリンティーに軽く焼いた新鮮な薔薇の花弁をブレンドしてあり、優美な薔薇の香りが人気の商品です。封を切った時に広がる薔薇の香りと、お湯を注ぎ口に含んだ時に薫る紅茶と溶け合った甘い風味が気持ちを和ませてくれる紅茶です。
少し変わったSticky Toffee Tea(タフィーティー)もお勧めです。乾燥させたタフィーが入っているので、キャラメルのような濃厚な甘さと香ばしさを引き立てる紅茶です。ミルクや砂糖と相性が良く、濃く出してミルクをたっぷり入れる贅沢な飲み方も美味しいですが、甘いお菓子と合わせる時はストレートがお勧めです。
アイスティーでは、国立台灣美術館で試飲もできるRose Iced Tea(薔薇アイスティー)がお勧めです。お湯を注ぐだけで気軽に作ることのできるローズティーですが、薔薇の香りが優雅に広がる、控えめな甘い風味が特徴です。果物の風味とビタミンCを配合しているので、すっきりとした口当たりを楽しめます。
Rose Houseの創業者である黄騰輝は、薔薇をテーマに抽象画を描く画家としても活躍し、国内外で個展を開催してきました。黄騰輝がデザインしたマグカップも合わせてご購入いただけます。
国立台湾美術館でお土産
国立台湾美術館の1階南棟にはミュージアムショップが設置されています。過去の展示のカタログや書籍、文具、雑貨、ファッション商品、美術館のオリジナル商品の他、台湾人アーティストが立ち上げた個人ブランドや台湾人作家からインスピレーションを受けて制作された工芸品を扱っているのが特徴的です。商業的な利益を追い求めるのではなく、生活の美学を紹介したり、台湾のアーティストの作品を展示し、彼らがより創造的で革新的な商品を開発できるよう貢献することが、このミュージアムショップの使命です。
ミュージアムショップは2008年に建築家の楊家凱が波動をテーマに設計しました。商品の陳列棚は、砂丘が形成した半固体の風景に浮かぶ提灯をイメージしてデザインされています。 人々がこれら提灯の間を行き来するのはまるで風が舞うようで、この風によって漂い移り変わる風景が完成します。 見ることと見られること、消費することと消費されること、展示と観客の境界は消え、このミュージアムショップの場全体が1つのインスタレーション作品になります。お買い物と同時に空間デザインも是非お楽しみ下さい。
おすすめ商品
花現國美|花漾隨行 (ノート)
アーティストの廖未林はこれまで台湾の花や植物、動物をデザインに用いてきました。ノートの表紙には生物が大胆に描かれていますが、それぞれの生物同士が穏やかに調和している様子に自然の力強さを感じます。
同時に、近くで見ると葉脈や斑点模様の精密さ、色彩の鮮やかさや色調のぼかしに惹きつけられます。ノートとして気軽にアート作品を持ち運びできることが魅力です。台湾人アーティストが描いた台湾のユニークな生物なので、台湾のお土産としてもお勧めです。
胡坤榮-夏天的聲音製冰盒(夏の音の製氷皿)
アーティストの胡坤榮は、音楽の聴覚体験を組み合わせて秩序と調和の感覚から視覚的なメロディを構成し、それを幾何学的な色と塊りを用いて油画で表現してきました。下は胡坤榮の「8分の8」 という作品です。
デザイナーはこの「8分の8」の絵画にインスピレーションを受けて製氷皿をデザインしました。氷同士がぶつかる音は「8分の8」を再解釈した音楽作品を生み出します。様々な形と大きさの氷が液体の中でぶつかり合う音は涼しげで風鈴を思い出します。元々の「8分の8」の絵のように、色のついた液体で氷を作ってみると視覚的にも楽しい音楽になりそうです。
MOTOR design−太極壺
台湾のデザイン会社MOTOR designによるティーポットセットです。東洋の禅の美学と西欧のミニマリストの様式を融合させています。ティーポットの円の形は太極、無限大、循環を象徴しています。実用的でかつ審美的であるデザインの美学を追求しました。丸い形やつるんとした質感が可愛く、持ちやすいティーポットで台湾のお茶を淹れるのはいかがでしょうか。
台中駅から国立台湾美術館のアクセス(バス・タクシー)
台中駅から3km程です。
台中駅を出て階段で1Fに降りたバスですと、51番に乗って、「国立台湾美術館」で降りればOKです。今、居る所からどのバスに乗ればよいか知りたい場合は、Googlemapを見れば、どのバスに乗ればいいか出てきます。
台湾でインターネットを利用する際は、以下の記事を参考にして下さい。
タクシーですと10分で100元(約350円)。紙に「国立台湾美術館」と、書いて渡せばOKです。
タクシーよりもUberの方が便利なので、アプリをインストールしておくと良いですよ!
基本情報
名称:國立臺灣美術館(National Taiwan Museum of Fine Arts)
住所:台中市西區五權西路一段2號
電話番号: 0423723552
開館時間: 9~17時 (土日~18時)
休館日: 月曜日
料金: 無料